Mizuoの日記

自由に思ったことを書いているブログです

言葉なんか覚えるんじゃなかった-園子温「恋の罪」感想(盛大なネタバレあり)

 

3連休も最終日ですね。私は快適なひきこもりライフを送っています。

久しぶりにまとまった時間暇になったので、最近ご無沙汰だったhuluを漁ってみると、なんと園子温監督作品が載ってるじゃないですか。

確認できたのは「冷たい熱帯魚」「恋の罪」「ちゃんと伝える」「みんな!エスパーだよ!」でした。

昨日は物凄い嵐だったので、雨のシーンが印象的な「恋の罪」をチョイス。久しぶりに観ましたがやっぱり破壊力抜群ですね。

 

恋の罪」は1997年に起きた東電OL殺人事件がベースになっています。

あくまでベースで、事件のエッセンスを抜き取って園子温色に染めたという感じですかね(いつもどおりですね)

東電で幹部を務めるエリートOL(幹部なのにOLって呼び名なんか違和感あるな…)が、夜は渋谷のラブホテル街である円山町で1回数千円単位で売春を行い、果ては売春場所として使っていたボロアパートで殺されてしまいます。

エリートの裏の顔が娼婦というわかりやすいゴシップ的なネタのせいで当時かなりセンセーショナルに報じられた事件みたいです(私は当時小学生だったのですが全然知りませんでした…)。

 

 

この事件から、園監督は人の本質的な影を感じ取り、映画に落とし込んだのではないかと思います。

 

〈映画のざっくりとしたあらすじ〉

渋谷・円山町の取り壊し寸前の廃墟アパートで、上半身と下半身に分断され、それぞれセーラー服を着たマネキンと赤いスリップドレスを着たマネキンに接合された女性の死体が発見される。

死体の頭は持ち去られていたため、死体の身元が分からない。

事件を担当する女刑事和子は、捜査を進めるうち、人気小説家菊池由紀夫の妻・いずみと、東都大学文学部助教授の美津子にたどり着くが…


映画『恋の罪』予告編 - YouTube

 

この映画は

和子の視点:事件後、真相を突き止める為物語を遡る

いずみの視点:殺人事件が起きるまでの過程を描く

の2つの時間軸で展開されます。

 

とはいえ、実際は神楽坂恵演じる菊池いずみの視点がストーリーの大半を占めており、モノローグ(独白)もいずみしか挿入されてないので、菊池いずみを主軸において、「恋の罪」を読み解いていきたいと思います。

先に3人の女性に対する私の所感を書いておこうと思います。

 

和子について

冒頭は和子の不倫シーンから始まります(絶対に入れる必要無かったと思われる水野美紀のフルヌードがあります。)

厳密に言うとこの時点では和子は夫も子供もいるという設定は全く分からないため、唐突に裏の顔を見せられ、むしろこれが裏の顔だと気付けませんでした。

その後に、男勝りな刑事としての働きぶりやごくごく普通の一般的な家庭で妻であり母でもある和子の一面を見せられても何かとってつけたような感じがして…

不倫相手の男(アンジャッシュの児島が演じてました。本物も変態なんじゃないかと思えるぐらい物凄いハマってました)から度々家族に不倫がバレそうな際どい要求をされても素直に受け入れちゃうところとか、表と裏の顔のギャップを狙ってるんでしょうけど、ぶっちゃけそんなにギャップ感じないなあと思いました。

 

 

ちなみに、物語中、度々和子を悩ませる幻想として、赤いドレスの女が登場します。

その女は町中で突然刃物で自分を刺し自殺し、和子はたまたまその場に居合わせただけなのですが、自殺した女の最後の願いを聞きいれました。

その女の最後の願いとは、夫に自分の浮気を知られたくないから携帯を壊してほしいというもの…

ええええええええ!?それ最後の願い!?

いやいや、自殺するんなら事前にデータ消しとけよ…

 

「早く救急車呼んで!」と叫ぶ和子に対し「聞いてます!?」と逆ギレする女…

テンプレによくありそうな頭の悪い女の典型みたいな会話を繰り広げています…

しかも直前にデパートで赤いドレスを買っており、「あの人に着てるとこ見せたかった…」って…見せればよかったじゃん…

 

ぶっちゃけブサイクな女優さんだったので私にとっては何一つグッとくるものがないエピソードだったのですが、最期の瞬間に立ち会ってしまった和子にはなにか残るものがあったようです。

その女が執拗に和子に幻影としてまとわりつくのですが、何でそんなことになってるのか私にはよくわかりませんでした。

 

 

話を戻します。和子の不倫の真っ只中に事件の報せが入り、和子は急いで渋谷の円山町へ。

そこにはあらすじで描いたようなとんでもなく猟奇的な死体が。死体の傍の壁には血で大きく書かれた「城」。

犯人は?死体の身元は?「城」の意味は?

ここでミステリ的な要素がほんのり提示され、和子もミステリ部分を担当するような役どころだと思うのですが、そんなの物語全般からしたら1%程度で全然重要ではありません。しかも一応捜査はしていますが全然進展せず、美津子の母からの連絡で全部片付くという何ともあっさりとした解決を見せます。

多分監督もミステリを描きたかったわけではないのでしょう。

死体発見後、事件の核となる菊池いずみ視点のストーリーが始まります。

 

いずみについて

人気小説家菊池由紀夫の妻として、日々粛々と家事をこなすいずみ。

由紀夫は相当の潔癖症のようで、紅茶の入れ方から石鹸の種類、スリッパの位置までそうとうなこだわりがあるようなのですが、いずみはその無駄なこだわり全てに応え、観ているこっち側が疲れるほどです。

(この映画を観た女性なら、仕事から帰ってきた由紀夫が玄関に置かれたスリッパを見て「うん、良い位置だね」って言った瞬間に「うへぇ…(;´Д`)」ってなったと思います)

由紀夫は小説家なのに朝7時に家を出て夜21時に帰宅し、ほとんど家にいることがありません。

由紀夫に尽くすことが幸せだと思っていたいずみは、少しずつ、自分の中で鬱屈とした不安が募っていることにきづきます。

その小さな気づきが後の事件に発展していったことを考えると、やっぱり本質的にはそんな奇特な話でもないんじゃないかあと思います。

 

美津子について

初登場時は娼婦の姿でした。格好が物凄くハマっているのですが、実は昼間は東都大学(多分東大的な?)で助教授を勤める家柄も良いお嬢さんだったようです。

いずみのメンター的な役割を負う美津子ですが、美津子自身もなにも答えが見いだせないままただただ娼婦をくりかえしていて、尤もらしい講釈を垂れていたものの私からしたら美津子もいずみも大して変わりがないように感じました。

それでも美津子はある理由からいずみを自分の世界へ引きずり込もうと、自らメンター役を買って出たのかなと…

美津子のセリフが物語を理解するうえでかなり重要となるので、長くなりますが一生懸命書き起こしてみたいと思います。

 

いずみと美津子が出会うまで

「何かがしたい。30歳を前にそればかり考えている。
したい。無性にしたい。何かがしたい。
このどうしようもない気持ちを、何とか鎮めたい。
夫への愛だけではどうしようもない自分がいるのがとてつもなく嫌だ。」

いずみのモノローグにより日々の暮らしの中で募っていた彼女の心情が

いずみは日々募っていく不満をどうにか解消したいと思います。

「もし、ぐっすり眠れる日が来たら、この日記は終わる。早く、この日記をやめたい。」

そんな思いに突き動かされ、いずみはとりあえずスーパーの試食販売のパートを始めます。

そこでお客として寄ってきた女性に突然モデルをやってみないかと誘われ、不審に思いながらもいずみは彼女の誘いに乗ってしまいます。

 

まあお察しの通りモデルではなく実はAV撮影だったのですが、その撮影現場で周囲から「可愛い」「綺麗」と褒めちぎられ、普段の生活ではまず味わえない刺激的な体験にいずみは溺れます。

 

AV撮影後家に帰宅したいずみは、全裸になって鏡の前に立ち、

「いらっしゃいませ。いかがですか。試食してみませんか。美味しいですよ」と、試食販売のウリ文句を連呼します。本当にしつこいくらい。最初は自分を鼓舞するようにポージングしながら自分に向かって言い続けていたのが、徐々に他者に向けて発信しているような素振りに変わります。

多分ここが彼女のターニングポイントになっているのかなと。

 

自分の身体は魅力的だ=自分は魅力的だったんだ=もっと他の人に見て欲しい!

 

過剰に抑圧されていたいずみの感情の爆発は凄まじく、いやいくらなんでも…という描写が続きます。(詳しくは映画をどうぞ)

 

いずみは普段はブラウス+カーディガン+膝丈スカートというステレオタイプな上品若奥様な服装を好み、化粧も薄かったのですが、開放的になった彼女は派手な服装にケバいメイクをしてナンパされる為に渋谷を闊歩します。

(この辺の描写もわかりやすすぎてなんだかなあという感じですが…)

フラッと迷い込んだ円山町で、謎の男カオルに声をかけられます。

カオルはラブホ街をうろつくカップルを見てこう語りかけます。

「皆、城の周りをぐるぐるさまよってるんだ。城にたどり着きたいのに、まだだれも観たことがない。だからああやって城に辿り着こうと、ぐるぐるさまよってるんだ」

 

ここで初めて「城」について言及されます。

このカオルの言葉から、読んだことのある人ならすぐカフカの「城」のことかな、と気付けます。

本質的に描きたいところは全然違うような気がするんですが、構造はなぞっているのかなあと思います。

「城」は未完の長編小説で、とある城に雇われた測量士Kが、何故か城に入ることを許されず、なんとかして城に入ろうとするも様々な要因に阻害され延々と城の周りにとどまっている、という話です。未完なので結末はわかりません。

この未完というところがキモなのかなあと。

 

カオルはある女から城の話を聞かされたのだと言い、その女が美津子でした。

カオルを介していずみと美津子が出会い、いよいよいずみの人生が狂い始めます。

 

美津子の詭弁

いずみは美津子に、城とはカフカの城のことかと問いかけます。同時に夫がピュア過ぎてついていけないとも打ち明けます。

それに対し美津子は

「私の父もとってもピュアさんでした。
でもピュアさんの城は本当の入り口じゃないんだよ。
愛の出入口は別なのよ。」

「確かに最初はカフカだったね。父に本を貰った。でもカフカじゃないの。父に教えてもらったの。城って言葉。」

このへんで美津子の父親に対する普通ではない感情が垣間見えます。

 

私はこのセリフを聞いても何を言いたいのかよくわからなかったのですが、いずみはグッと来たらしく、激しく美津子に助けを乞い、美津子が突き放してもつきまとい、美津子の売春現場にまでついていきます。

 

ある理由からいずみに対して思うところがあった美津子は、自分の大学の講義へいずみを招きます。

 

その講義で美津子が朗読していたのが、田村隆一の「帰途」という詩でした。

ちょっと長いですが引用します。

 

帰途        田村隆一

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる

 

言葉の本質を美しく表現したとても素晴らしい詩だと思います。

人は言葉を知らなければ何もわからないんですよね。

怒りや喜びの感情が湧いても「怒り」や「喜び」という言葉を知らなければ、自分が感じているものがなんなのか認識できません。

大学時代、記号論の授業でも習いました。

(なので私は語彙力が多い人ほど感情が豊かだと思っています。)

 

この詩自体の意味はよくわかりますが、この詩を元に展開される美津子の持論はなんだかよくわかりませんでした。(私の理解力が低いせいなのか…)

 

「うちはね、ものすごいハイレベルな大学だって言われてるけど、
学生なんて私の言ってることの半分も理解してないわ。
だって授業は言葉だけだもん。
本物の言葉はね、一つ一つ、身体を持っているの。
(いずみに舌を出すように促し)
コレは舌よ。濡れているのはあなたの唾のせい。ほら、糸を引いた。
舌。唾。糸。ね、言葉は皆、肉体を持っている。

全ての単語は意味を持っているの。意味ってわかる?身体よ。
言葉の意味って身体のことなのよ。」

これを聞いていずみは涙を流します。(なぜだ…)

そしてここから詩の解説へ。

「そうすれば、あなたの涙の前で立ち止まることはなかった。

つまり、涙の意味を知らなかったら、それは、ただの目から流れた水なのよ

目から出た水ってことだったら人はだれも立ち止まらない。でも涙っていう言葉の意味を知ってしまったら、人は立ち止まる。涙も肉なのよ」

いずみ「わかる気がします…」

「あなたは愛という言葉や罪という言葉が頭でぐるぐる回ってるんだよ

でもその愛という言葉も罪という言葉も身体を伴っていない。タダの意味の無い欠片に過ぎないの。今はね。でもそのうち、愛に身体ができる」

 

ここまでの美津子の持論にいずみは完全に心を打たれたようですが、私にとっては全然納得出来ないというか、論理破綻してるんじゃないかと思う節が多々あります。

 

この直後、美津子は学生相手に売春を行い、そのお金でいずみにビールをおごります。

いずみはなぜ美津子の持論が売春に繋がるのか理解できていません。

(まあ皆そうだと思いますが)

そんないずみに対し美津子はこう言います。

「理由なんてないの。城よ。」

「城なのよ。なぜかと訊かれても、それに関して私今はなにか言いたくても言葉が身体を持たないの。私はいずみさんに、良い講義、良い解説ができないの。
だから言葉の代わりにさっき身体で見せてあげたのよ。」

いずみはすがりつくように

「私、気が狂ったみたいなんです。
私どうしたらいいのかわからない…」

(いずみの言葉を途中で遮り)

「まだ言葉にからだがついてきてないよ。だから戸惑うの。
そのうち、あなたが経験した分だけ言葉が身体もがなってくるから。自然にね。

言ったでしょ。私はいずみさんがよくわかるって。
それ、少しずつ一緒に言葉にしていきましょうよ
でも、暗号名は城よ。」

 

ここまで書き起こしてみて、やっぱり美津子の持論は詭弁だと思いました。

そもそも

なぜかと訊かれても、それに関して私今はなにか言いたくても言葉が身体を持たないの。私はいずみさんに、良い講義、良い解説ができないの。
だから言葉の代わりにさっき身体で見せてあげたのよ。

って自分も言葉に身体が伴ってないってことじゃ…

美津子はまるでいずみより遥か先を行く存在のように見せていますが、実際は立ち位置的には同じです。

二人とも意味のある言葉を持つことができていないんです。

 

そもそも、

全ての単語は意味を持っている→意味とは身体のこと→言葉は身体

という3段論法自体が怪しい。

身体を伴っていない言葉は意味のない欠片にすぎない。

だから売春して自分に意味を与えている…

うーん…理解に苦しむ…

いずみが初めて売春を行い、金を得た時、美津子は

「これ、全部あんたの身体で稼いだお金なのよ。ちゃんとしな!」

「菊池いずみという言葉が意味を持つ瞬間なの!」

「私のところまで堕ちてこい!!」

と物凄い形相で怒鳴るんですが、なんで売春でお金を得たら自分の名前に意味が出てくるんでしょうか…。

 

 いずみはその言葉を素直に受け取り「このお金は私の記念碑」としていますが、え、AVで稼いだお金は…?あれは違うの…?違うとしたら何を以って別と捉えたの…?

いずみも思考停止して全てを美津子に委ねている風にしか見えませんでした。

 

ごちゃごちゃ言ってますが、要するに

 

美津子:父からの愛(永遠にえられない)

いずみ:夫からの愛(まだ可能性はある)

 

という状況において、美津子はいずみを救うフリをして、

いずみから希望を奪って自分と同じ状況に陥れたかったんだろうなと思います。

(いずみの夫の由紀夫は、実は美津子の長年の常連客だった)

それこそ「私のところまで堕ちてこい」と強く思ってたんではないかと思います。

 

 ラスボスは美津子の母

 父が亡くなった後、論理破綻した思考でしか自分を保てない、哀しい人生を送る美津子ですが、怖いものなしに見える彼女が唯一恐れているのが母親である志津です。

 

志津役の大方斐紗子さん、この作品でぶっちぎりの怪演です。

見た目も所作も話し方もとても上品なのですが、内容が強烈。

美津子、カオル、いずみ、志津で会話をするシーンがあるのですが、由緒正しそうな屋敷で、品の良いテーブルを囲んで紅茶を志津は開口一番

「売春の方は上手く言っているの?」と切り出します。

いずみはきょとん(観客の気持ちを体現してる)。カオルは嬉々と売春の状況を語り、美津子は黙って微笑んでいます。

そんなものはまだまだ序の口で、自分の実の子を目の前に

「この子は父親に似て本当生まれながらに下品ですのよ」

「下品で頭の悪いのも似てます。」

等々、え、ギャグで言ってるのかしら…?と思うぐらい罵ります。

美津子「クソババア早く死ねよ」

志津「あなたこそ早く死ねばいいのにねえ?」

このへんはもう面白くて笑っちゃいました。

 

ただ本当に志津役の大方斐紗子さんの怪演が凄まじいのでこれ観るためだけにこの映画観ても良いと思えるぐらいです。個人的には「冷たい熱帯魚」のでんでんに匹敵するんではないかと思います。

 

そんな並々ならぬ存在感を放つ志津さんは、ユングで言うグレートマザー的な役割であり、全てを呑み込み物語に終止符を打ちました。

 

事件の真相を言ってしまうと、

1.カオルが運営し、美津子も所属するデリヘルクラブでいずみも働くことに

2.美津子がチェンジを要求された客のホテルにいずみとカオルが向かう。その客とはなんと由紀夫だった

3.しかも由紀夫は美津子の売春の常連客だった

4.由紀夫がデリヘル依頼してたこともショックなのに美津子の常連だという事実のダブルパンチでいずみはやけに。由紀夫からデリヘル代として金を要求(夫婦関係破綻。美津子の目的は達成)

5.美津子の思い通りの展開に。全ての目的を果たした美津子は円山町の廃墟アパートにいずみを連れ出す(カオルもついていく)

6.言い争う美津子といずみの前に志津が現れ、美津子は恐怖に慄く

7.志津はいずみに美津子を殺すよう命じ、カオルにも手助けさせる。

 

という感じです。

志津が出てきたら、屋敷だろうが廃墟アパートだろうが全く関係なく空気が変わりますね。「あたしの出番だね」は超怖かった。初めて観た時は鳥肌立ちました。本当に恐ろしい存在です。

 

 

結局、美津子は父から女として愛されず、その代わりになる存在を見つけることもできず、言い訳がましい理論に縛り付けられたまま生涯を終えたのでした。

(と私は捉えています。)

 

いずみは美津子を殺した後、精神崩壊したようで恐らく東北の場末の漁村みたいなところで娼婦をしていました。

生きていても死んでいても変わらなさそうな有り様で…

 

カオルは自殺しました。

 

この作品の一番の問題は園子温監督の視点

結局、この作品で連呼されている城がなんなのか、よくわかりませんでしたが、

まあ言ってしまえば「愛」のことなんだろうなあと思います。

そして美津子といずみは「愛」を「自分そのもの」と捉えていた。

愛=自己となっていたので、愛を渇望しているのに与えられない状態は自己の存在意義が揺らぐレベルだったのでしょう。

 

和子はそこまで深刻ではないようですが、その素養はありそうです。

 

色々書いてみましたが、この映画に出てきた人物で、常軌を逸している美津子といずみも、平凡な家庭生活を送りながら際どい不倫を続ける和子も、一歩間違えればどんな女性も陥る可能性があるよ、ということなんでしょうが…

 

多分、私がしっくりこない理由は、園子温監督が「男の幻想の中の女性」を「リアルな女性」として描いたつもりになってるところにあるんじゃないかなあと思います。

 

実際、園監督はこの映画のインタビュー時

「男性目線で映画を撮らないようにしようと決めたんです。」って

えー!!!!!!!!どの辺がー!!!!!!!!ヽ(゚Д゚ )ノ

 

・不倫相手からビッチビッチ言われて喜んでる和子

・あからさまに性に開放的になりすぎるいずみ

・父から受けられなかった愛情を売春で埋めようとする美津子

 

どれも男性の中の「こうだったらいいな」的な欲望が反映された女性像な気がするのですが…

 

多分、この映画の違和感はここに帰結するんではないかと思います。

長々書いてきましたが、

「そんな無理して女性を描こうとしなくていいので、「愛のむきだし」とか「冷たい熱帯魚」みたいな男目線の泥臭い傑作を作ってください」

というのが私が一番思ったところです。

とは言え作品自体は面白いのでまだ観てない方は是非。

 

 

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