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人の目を気にしながら生きる

人の目が気になりつつも自由に思ったことを書いているブログです

サカナクション 「アイデンティティ」 歌詞とPVの分析

【追記】
2014年1月15日発売の両A面シングル「グッドバイ/ユリイカ」からユリイカのPVの分析もしてみました。よかったらどうぞ→-身体をなぞる意味-サカナクション「ユリイカ」PVと歌詞の分析




今年3月にサカナクションの昨年発売したシングル「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」のPVが、
スペースシャワーTV主催「SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」の「BEST VIDEO OF THE YEAR」を受賞しました。
2010年にも「アルクアラウンド」で受賞してますよね。

サカナクションは2010年頃からファンになったんですが、楽曲の素晴らしさもさることながら
異常にクオリティが高いPVも連発していて、PVが良かったからここまで好きになったのかも、というくらいです。

好きになったきっかけは「ネイティブダンサー」でした。
衝撃的にかっこよかった。
ナイキの広告だとかいろいろ言われてましたが、うるせー!かっこいいから良いんだよ!


曲と映像のシンクロ具合ヤバいですね。
あの足のダンスはCGだと思ってたんですが(速さ的に不可能そうだから)、
実際にプロの方が踊ってるってんですか?どうなんでしょう?

この頃は芸受性の高いPV作りをしていましたが、「アイデンティティ」から
「ルーキー」「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」「エンドレス」までの4作は芸術性だけでなく
示唆に富んだ内容になっています。

というわけで今回は、この4作の中で比較的わかりやすい「アイデンティティ」を私なりに分析してみました。
曲調の分析は全くできないので、ここでは歌詞とPVの分析を。
(大学時代、教授からPVと歌詞は切り離して分析するのが普通だと言われた気がしますがスルーします)



サカナクション/アイデンティティ
作詞・作曲 山口一郎

このPVは大きく分けて3つのパートに分けることができます。

【1】1度目のサビまで。
最初は無音で、幾何学模様を背景にメンバー一人一人が映し出されます。
曲が始まると一人一人の顔アップやバストアップ、メンバー全員が
映っているショットが切替わりながら進んでいくという至って普通の流れに。

【2】2回目のAメロ〜5人の合唱まで。
ボーカルの山口さん以外のメンバーが、それぞれ違った
幾何学模様を背景に佇むシーンが移り、サビでは演奏部分に切り替わるものの画面の端に違和感が。
なんとこれはパチンコ台の中央にあるモニターの映像だった!

【3】3回目のサビから最後まで
段々カメラが引いていき、サカナクションではなくパチンコ台がメインに。
大当たりが出ているのか玉が出まくっている。
そしてパチンコ台全体が映し出されると、不思議とパチンコ台が顔に、玉が涙に見えて、猛烈に泣いているように見える。
泣いているパチンコ台と迫力のコーラス、音の厚い演奏で最高潮に盛り上がって終。



そして歌詞の流れもまた3つに分割できます。綺麗にシンクロしています。
(歌詞全文掲載は著作権侵害になるので控えます。全文見たい方はコチラでどうぞ)

【1】1回目のサビまで
初っ端からいきなり「アイデンティティがない」と叫ぶように歌っています。
このパートでは、他人と比べることでしか自分を見い出せない自分のスタンスに苦悩し、
自分らしさって見つかるのか、というヘビィな問いを投げかけています。

【2】2回目のサビまで
2回目のAメロは10代の自分を思い出すところから入ります。
思い出を振り返り、その頃に形成されたものが自分らしさなんじゃないか、と気づきます。
今まで見失っていた自分らしさが解り始めた!と希望が湧いたように感じられます。

【3】ラストまで
2回目のサビでやっと自分らしさに気づいてめでたしめでたしと思いきや、
最後の最後に不可解な歌詞が入り込んでいます。

どうしても叫びたくて泣いているんだよ
どうしても気付きたくて僕は泣いているんだよ

叫びたい理由、泣きたい理由、そして何に気が付きたいのかわからないまま曲は終わります。



以上のPVと歌詞のパート分けを念頭に置いて、キャプチャ画像を見ながら少しずつ分析していきます。


最初の無音の時、5人全員同じ幾何学模様を背景にしています。
ところが、2回目のAメロでは、山口さん以外のメンバーがそれぞれ違う幾何学模様を
背景に映っています。





なぜ2回目は違う模様なのか。なぜこのタイミングなのか。
ここで流れている歌詞を見てみましょう。
ちょうど過去の自分を振り返っている部分です。

風を待った女の子 濡れたシャツは今朝の雨のせいです
そう 過去の出来事 あか抜けてない僕の思い出だ

これは山口さんの個人的に印象に残っている思い出でしょう。

同級生の女の子の制服のシャツが濡れててちょっとドキドキするみたいな。
敢えて少しエロい表現を持ってきたのは少年期のリアルな感性を
呼び起こさせるのに最も適していたからでしょうか。
そしてそのエロティックな表現はリビドーを連想させ、それは生きたいという本能に直結し、
自分が自分として生きていくために必要な部分なんだ、だという解釈をも可能にしてしまいます。
(それは行きすぎでしょうが)
でも山口さんの歌詞はそういう表現ほとんどなかったので実に印象的です。実におも(ry

話を戻すと、山口さんは歌うという行為で自己と見つめ合えますが、他のメンバーはそうはいきません。
山口さんだけじゃなくて他のメンバーも自己と向き合っているんだよ、ということを
表現する為に、各々違う背景になったんじゃないかと。
まだ自己と向き合ってない最初の方は、皆同じ柄の背景ですしね。


そして2回目のサビが始まる直前、
「自分らしさと気づいた」という歌詞とシンクロするように
突然枠のようなものがフレームイン。(枠だけに)

これは自分と向き合い、その結果自分を客観視することができた、という意味でしょう。
他人との比較ではなく、自分を見ることで自分の存在意義を確かめることができた。
サルベージが成功したわけです。

2回目のサビが終わったあと、5人全員のコーラスが入ります。



そしてPVが出た当時話題になった泣いているパチンコ台。

どうしても叫びたくて 叫びたくて 僕は泣いているんだよ
どうしても気付きたくて 僕は泣いているんだよ

この歌詞とシンクロ」するように、パチンコ台は止めどなく涙(玉)を
流していきます。
2番目の歌詞までは結構わかりやすい流れだったのに、この部分は一体何を
言わんとしているのでしょうか。

ここで、山口さんがこの曲について語ったインタビューの一部を引用します。


僕は音楽を作っていく中でしか“自分らしさ”について考えることが無かったんですよ。つまり自分と向き合う中で“自分らしさ”を考えていくのが普通だと思っていた。でも東京に出てきたことでね、東京っていう街はいろんな地方から来ている人の集合体だなと思ったし、そういった人たちがすれ違う人と自分を見比べて“自分らしさ”みたいなものを発見しているんだなって。

あと、YouTubeのコメントとか見ていると、動画を見終えた直後の感動をコメントしているんじゃなく、見終えて他人のコメントをいくつも見た上でコメントしている人が多い。それって他者の意見を反映させた自分の意見だからピュアじゃないんですよ。でも今はそれが正論になったりする。そこに僕は時代の面白さを感じたんですよね。

 それで“本当の自分らしさ”について考え出したとき、一体いつの年代がピュアに自分の感覚で話していたのか振り返ったとき、やはり「幼少期だな 」って思ったんです。子供の頃の素直さというか、20代後半の女性を掴まえて「おばちゃん」って平気で言ったりね(笑)。今は気を遣って言わないことを 言っていた。それは無知なんですけど、無知だからこそピュアでいられた。でも今は無知ではなくなった年齢で、その中でピュアをどう出していくのかが“ 本当の自分らしさ”に繋がっていくんじゃないかと気付いて、それを『アイデンティティ』という曲で表現しようと思ったんです。」

(引用:http://www.hotexpress.co.jp/interview/100722_sakanaction/page2.html#0



ななんと。実は山口さんは、そもそも他人と自分を比較しない人でした。
他人と比較しながら生きている周りの人達を見て、そこから改めて自分とは何だろうと振り返り、音楽を作るのとは別の方法でアイデンティティを探った。
そしたら幼少期の思い出が自分を形成していたことに気づいた。
なんの柵(しがらみ)もない無知で純粋な頃の自分を引き出していくことが自分をオリジナルな存在に近づけることができる。

「どうしても叫びたくて 叫びたくて 僕は泣いているんだよ」
の部分は、リスナーに向けたメッセージでしょう。
ストレートに「お前らも気づけよカスども」と言ってしまうと一気に俗っぽくなってしまいますしね。

そして最後のフレーズ
「どうしても気付きたくて 僕は泣いているんだよ」

はあもう意味わからん…と匙投げそうでしたが、
PVをよく見ていると、ちょうど「気付きたくて」の部分でパチンコ台が顔と認識できるんです。
パチンコ台が顔と認識できた瞬間、PVの主役は山口さんからパチンコ台に移行します。
パチンコ台の顔から、歌声が流れてきます。

このパチンコ台、一体誰の顔で、誰が泣いているのか。
これって山口さんの投影ではなく、山口さん(とメンバー)以外の人達、
つまり山口さんがインタビューで言っている他人と比較して「ピュア」じゃない自己しか知らない人たちの暗喩なのではないかと。

そもそも一回目のAメロの

好きな服はなんですか?好きな本は?好きな食べ物は何?
そう そんな物差しを持ち合わせてる僕は凡人だ

写し鏡 ショーウィンドー 隣の人と自分を見比べる
そう それが真っ当と思い込んで生きてた

これは上記のインタビューからも分かる通り、山口さん自身の体験ではありません。
あくまで一般人の感性を歌ったものです。
もしかして、1番と2番で違う人格が存在しているのでは?

1番は他人と比較して自己を確認する人たち、
2番はその人達をみて自分てなんだろうと改めて自己を見つめ直し答えを出した山口さん。

そして最後の2行の1行目は山口さんの叫び、2行目は自己を見つけられない人たちの叫びと考えると、割りと納得できる気がします。

結論として、「アイデンティティ」は一見山口さんが見失ったアイデンティティを見つけるまでの過程を描いた作品のように見えますが、実のところアイデンティティを見失ったまま悲しみを湛えて生きている人たちに、その深層心理に気づいて、向きあってほしいという願いが込められたひねりあるメッセージソングだと私は解釈しています。

自分と向き合うことは辛く、時に恥ずかしいものです。それこそ厨2病時代の自分なんか思い出したくもありません。
でも山口さんは「濡れたシャツ」の下りで自分の恥ずかしい部分をリスナーと堂々と共有し、その部分と向き合い、受け入れることで自分らしさが獲得できるんだと教えてくれているような気がします。

この「アイデンティティ」はそれまでのサカナクションの曲とはかなり毛色が違うと感じています。
サカナクションの歌詞は、「〜だ」「だろう」というように自己完結しているものがほとんどでした。
アイデンティティ」で再三繰り返される「どうして」というダイレクトな疑問符は、この曲以前のシングル、アルバム含め全ての曲で使われていません。
自問自答すると同時にリスナーにも投げかけるような、そんな歌詞の構成はこの曲が初めてだと思います。
(その後だと「エンドレス」や「モノクロトーキョー」でも似たような構成が見られます)
なにか心境の変化があったんでしょう。
多分その部分を語っているインタビューは山ほどあるんでしょうが、残念ながら手元に無いため分析不可能です。
終わり。



という感じで長々と書いてきましたが、こじつけが多いにせよ、そこまで的はずれな分析でも無いかなと思っています。
自分もアイデンティティが無いとずっと悩んできた人で、それに1つの答えを見出してくれたこの曲にはかなり思い入れがあるので、決して適当にやった分析ではありません。
(でも先行資料とか一切読んでないのであしからず)

ちなみにサカナクションはPVだけでなくLIVEも素晴らしいです。2回ほど観ましたが全員超上手い。
特に草刈さんのベースがファンキーでカッコいいです。
山口さんのボーカルは魂の発露を感じます。本当に圧巻です。



久しぶりにこういう分析やりましたが、やっぱり楽しいですね。
大学時代は本当にこんなことばっかやっていて、今思えば噴飯もののレポートを何本も産みだしていました。
それも自分らしさなのか…



もし見ている方で「全然違う。許さない。」と感じられたら是非コメントを頂けると嬉しいです。



アイデンティティ

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